「ごはんやパンは血糖が上がるからダメ」「炭水化物を抜いた方が痩せる」――栄養指導の現場でよく耳にする言葉です。でも実際には、炭水化物は体にとって大切なエネルギー源。正しく選んで、バランスよく食べれば、血糖コントロールも体重管理もスムーズになります。
この記事では、糖尿病 食事指導を行う栄養士 向けに、炭水化物の正しい位置づけと現場ですぐに使える指導ポイントをまとめました。
1. 炭水化物は本当に悪いの?
炭水化物=糖質は、脳や筋肉の主要なエネルギー源です。完全に抜いてしまうと、集中力の低下や疲労感、反動での食べ過ぎにつながることもあります。
日本糖尿病学会のガイドラインでは、糖尿病患者への食事指導において「炭水化物の量は一律に制限するのではなく、個人の生活や薬物療法に合わせて調整する」ことが推奨されています。
患者さんには「炭水化物はゼロにするのではなく、量と質を工夫して取り入れることが大事」と伝えると納得してもらいやすいです。
2. ガイドラインが示す炭水化物の“目安”
厚生労働省の「食事摂取基準(2025年版)」では、炭水化物の必要量を細かく決めるのではなく、エネルギー全体のバランスで考えることが大切とされています。
一般的には、炭水化物は総エネルギーの50〜65%程度が目安とされていますが、糖尿病患者さんでは個別調整が前提です。
また、WHOのガイドラインでは「糖質は精製度の低いものを中心にし、食物繊維を十分に摂ること」が推奨されています。
つまり、白米や食パンだけでなく、雑穀・玄米・全粒粉パン・野菜や豆類からの糖質を意識的に取り入れることがポイントです。
3. 実際の指導で役立つ工夫
患者さんに伝えるときは、難しい数値ではなく、日常の食事に落とし込むと理解されやすいです。
- 麺やパンの時も「野菜やたんぱく質を一緒に」
- 外食では「丼より定食」「ラーメンはスープを残す」
- 主食を減らすよりも「甘い飲料やお菓子の糖質を見直す」
こうした具体的なイメージを伝えると、患者さんも「やってみよう」と思いやすくなります。
4. 低糖質ブームへの対応
最近は「糖質制限ダイエット」が話題ですが、極端な制限は低栄養やリバウンドにつながることがあります。
栄養士としては「糖質を抜く」ではなく、精製された糖質を減らし、質を高める方向に導くのが安心です。
たとえば…
- 白ご飯を全部抜くのではなく、雑穀米にして量を少し減らす
- お菓子をやめる代わりに果物を少量
- 糖質ゼロ飲料より無糖のお茶や水
「完全にやめる」のではなく「より良い選び方」を提案することが、現実的で長続きします。
まとめ
炭水化物は決して悪者ではありません。
大切なのは「量」と「質」のバランス。全粒の炭水化物や野菜・豆類からの糖質を取り入れ、過剰な精製糖質を減らすことが、血糖コントロールと健康維持につながります。
管理栄養士としては、最新ガイドラインを根拠にしながら、患者さんが実践できる言葉で伝えることが大切です。
参考文献
- 日本糖尿病学会編・著「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- WHO. Healthy diet. 2023. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/healthy-diet

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